2026 年 9 月

9/1(火)

今日も Nakamura–Wojtkowiak を読み進めた.ℓ\ell-adic polylogarithm の関数等式に低次の誤差項が現れるのは pro-ℓ\ell fundamental group の Lie 代数が canonical な grading を持たないからだそうだから,これは motivic fundamental Lie algebra が定める非自明な extension class(つまり,KK 群の元)と関わっていると思うのだが,それらの間に何か直接的な関係を見出すことはできるのだろうか? ひょっとすると Deligne と Beilinson の Interprétation motivique de la conjecture de Zagier reliant polylogarithmes et régulateurs という論文に何か関連することが書かれているかも知れないので,Nakamura–Wojtkowiak を一通り読み終えたらこちらも読んでみたい.

P1∖{0,1,∞}\projsp^1\setminus\{0,1,\infty\} の面白さを手短に纏めた記事を書いても良いかも知れないと思っている.私が書けることはかなり限られているが……

9/2(水)

Nakamura–Wojtkowiak を少しだけ読み進めた.具体的なポリログの計算が始まった.それから,今更ながら Drinfeld associator の六角形関係式の意味するところを理解した.

今日はヴァイオリンがあった.バッハは難しいが楽しい.

Dupont の Progrès récents sur la conjecture de Zagier et le programme de Goncharov [d’après Goncharov, Rudenko, Gangl, …] というサーベイを見つけたので,これを読んでいる.どうやらポリログはかなり深い話と繋がっているらしい.普通の(即ち複素の)ポリログの関数等式と KK 群が云々という話が書いてあるが,これは私が昨日書いたことと関係あるのだろうか? ところで,ポリログに関する Zagier 予想について調べていたら現ルーマニア大統領の Nicușor Dan の論文に行き当たった:Sur la conjecture de Zagier pour n=4n=4.数学の博士号を持っているということは彼が就任した時に Twitter で少しく話題になっていたので耳にしたことがあったが,専門が数論幾何だったとは知らなかった.Wikipedia によると,指導教員は Soulé だったらしい.

étale polylog と pp-adic polylog はそれぞれ finite polylog と関係があるらしい(前者は Sakugawa–Seki,後者は Besser).

9/3(木)

引き続き Dupont のサーベイを読んでいた.数体の KK 群の計算結果から,それの上の一変数多項式環の KK 群も計算できるらしいので,それを用いれば数体上の (punctured) affine line 上の混合 Tate モチーフの淡中圏が無条件に作れるということを初めて知った.これは KK 群の一般的な性質によるらしいが,それをよく知らなかった.

Brown の Notes on Motivic Periods には意外と知らないことや雑に理解していることが書かれていて勉強になる.こちらも少し読んだ.

今までずっと自分のことは嫌いだし許せないと思っていたので,自己肯定感という言葉をうっすらと冷笑していたが,自分を肯定することというのは自分の行為に対する責任の所在を明確にする為の倫理的な要請なのかもしれないと漸く気がついて,今更ながら自己肯定感も大事なのかも知れないなと思った.自己肯定感を持とう!

9/4(金)

伊原先生の Braids, Galois Groups, and Some Arithmetic Functions という論文はどこもリンクが切れているので読めなくて困っていたが,Wayback Machine にはスナップショットが残っていた.まだ最初の方しか読んでいないが,丁寧に書かれていて良い勉強になりそう.Grothendieck–Teichmüller 群の例の謎の関係式の幾何学的な導出方法(丁度知りたいと思っていた所だった)も詳しく書いてあって有難い.GQ⟶Aut(F^(2))G_{\Q} \lra \aut(\widehat{F}(2)) の像が Z^××F^(2)′\widehat{\Z}^\times \times \widehat{F}(2)' に含まれる理由を漸く理解した.

Dupont のサーベイは Zagier の予想の motivic な定式化のところを読んだ.まだあまり理解していないが,数体の Dedekind ゼータ関数の正整数での値がポリログを含むある行列式として表せるという Zagier の予想(s=1s=1 での類数公式の一般化)があり,それが混合 Tate モチーフの拡大が必ずあるクラス(logarithimic motive が生成する部分圏)に含まれるかという問いに言い換えられるらしい.数論は深すぎる.(多重)ゼータ値に関する motivic な理論は大体 Brown の仕事でひと段落してしまって,あとは超越数論的な絶望的に難しい問題ばかりが残っているという偏見があったのだが,まだ全然そんなことなくて,モチーフ論の範疇でも興味深い問題がたくさんあるんだなぁ.Goncharov と Rudenko の ζF(4)\zeta_F(4) に関する論文が気になってきた.

メモ:Bouis, Review of syntomic cohomology

9/5(土)

今日から 2 学期のアルバイトが始まった.8 月にヨーロッパを旅行していた友人からお土産をもらった.

Dupont のサーベイで crochet d’Ihara が出てきてよく分からなくなったので,Brown の Motivic periods and P1∖{0,1,∞}\projsp^1\setminus\{0,1,\infty\} の Ihara action の箇所を読んだ.

Drinfeld が Grothendieck–Teichmüller 群を導入した動機であるところの,quasitriangular quasi-Hopf algebra の quantization(理解していない)とやらを理解したい.

IAEA から Drinfeld の論文を落とすことができて面白い:Quasi-Hopf algebras and Knizhnik–Zamolodchikov equations

9/6(日)

Dupont のサーベイは motivic correlaor あたりで段々分からなくなってきた.この辺りを是非理解しなければならないわけではないから,一旦切り上げても良い.しかし Goncharov の correlator の原論文は面白そうだ.

夜は Cisinski のゼミがあった.こちらは倦怠期に突入しており,メンバーの間でこのまま Cisinski を読み進めるか,或いは他の文献に移行するかで議論になっている.

今日は涼しかった.明日は友人たちと久しぶりに川外川でご飯を食べる予定だったのだが,災害級の大雨が降るそうなので断念した.

なるほど人間は幾らかの理性を持ち合わせているにせよ,理性は理性が思っているほどに大きな力は持っていないだろう.所詮,人間の行為の動機たり得るのは理性よりも寧ろ根源的な快/不快の欲求であり,理性はその欲求の遂行の過程でより高度な行為を為さしめる手助けをするに過ぎないのだと思う.或いは私が野蛮な人間だから内省によってその程度の結論しか導けないだけであって,他の人は違うのかもしれないが…… しかし少なくとも私にとっては,喉の渇きを覚えたから水を飲むということと,暇だから数学をするということとの間にはさしたる違いはないように感じられる.

9/7(月)

Weibel の The K-book の IV 章 1 節を読んだ.代数的 KK 理論について実はほぼ何も知らなかったので,勉強になった.

最近気になっているポリログに関して,佐久川さんの Generalized Beilinson Elements and Generalized Soulé Characters と中村先生と白石さんの Landen’s trilogarithm functional equation and ℓ\ell-adic Galois multiple polylogarithm が面白そうな気がした.今日は取り敢えず佐久川さんの論文の最初の方を読み進めた.

エウリーピデースの《オレステース》を伴奏も含めて全編ギリシア語で再現している動画を見つけた.かなり完成度が高くて感服した.Oxford Ancient Languages Society という学生団体が製作したらしい.Oxford の Armand D’Angour 先生が《オレステース》のパピルスの断片(Orestes Papyrus)に残されている楽譜から当時の旋律を復元して実際に演奏した動画(Rediscovering Ancient Greek Music (2017))が数年前に投稿されており,上に挙げた上演でも似た(同じ)旋律が用いられているから,D’Angour 先生の影響も強いのかしら.因みに D’Angour 先生は去年プライベートで来日しており,本郷の西洋古典の購読の授業のコマを借りて特別授業をされていて,私もそれに出席した.

来年度の Motives in Tokyo はソウルで開催されるらしい:Motives in Seoul 2027.ソウルだと参加できるか分からないので,個人的には東京で開催して欲しかったものだが……

9/8(火)

Voevodsky の motivic homotopy thoery に関する Nordfjordeid lecture の講義録を少し読んだ.最初の方に Dundas と Levine が前提知識を書いていくれているので一応目を通したが,motivic space と motivic spectrum 以外のところは大体知っていそうだったので適当に読んだ.

佐久川さんの論文を読もうと思ったが,Hodge–Tate 構造のところで色々と考えていたら全然進まなかった.(混合)Hodge 構造は線型代数の妙味だ.

明日から駒場でポリログの研究集会がある.雨が酷くないと良いが.

9/9(水)

ポリログの研究集会の 0 日目(warm-up session).Gangl 先生の講演で Zagier 予想あたりの話が言及されていた! Pirio 先生の web geometry は本当に微塵も(名前すら!)知らない話題だった.

幾らか前に指導教員から「とある先生が Deligne と話した時,Deligne が『ウレール,ウレール』と言うので『ウレールとは誰ですか』と聞いたら,『お前はウレールも知らないのか』と言われた」云々という話を聞いたことがあったのだが,今日 Pirio 先生が Euler を「ウレール」と言っているのを実際に聞いて少し感慨深かった.

明日は 9 時半から始まるのだが,この時刻に駒場に到着するのは中々難しい.

OpenAI が Navier–Stokes 予想の反例を挙げたということが話題になっている:On the Navier–Stokes Millennium Prize Problem.この分野は全く専門外なので,私にはこの証明に関して何も分からないが,少なくとも Lean による形式化はされているらしい(だからと言って証明が正しいことを意味しているわけではないだろうが……).

もはや今となっては日常茶飯事となってしまった AI による未解決問題の解決事例——というよりは反例構成(とは言っても,矢張りミレニアム問題の一つというのは衝撃的ではあるが)——かと思いきや,その過程に色々ときな臭い悶着があったそうだ.関係者の Tristan Buckmaster は声明を発表している.この文書の中に次のような記述がある:

I asked when the first prompt had been sent by them. This question was not answered directly by OpenAI for some time. Eventually it was agreed that it had been sent in the past few days, after information about our work had reached OpenAI.

I asked whether the model had been trained on, or had access to, our sessions in Codex, into which we had been putting all our drafts for the whole of this project. I was told the model did not look up user data. I asked again, about training, and I did not get an answer.

Two proposals were offered to me. The first was that we post our Euler result, and that OpenAI post its Navier-Stokes result the next day. The second was that, after posting Euler, I alone write a paper presenting the Navier-Stokes result, acknowledging that an internal OpenAI model had resolved it. Sebastien twice asserted that he wanted Levent removed from authorship, and said it would all be simple if only it were not the case that, and it was so annoying that, Levent works at Anthropic. It was also said that if OpenAI posted after us, they would say that we deserved the Clay Prize, and that we were the “closest humans to the problem”. I declined both offers.

I said that if OpenAI released its result in the way proposed I would go public with what happened. The reply was, “Why would you ruin your career?” I replied that I am an academic, and asked why he thought going public would ruin my career. The reply was, “If you don’t want me to be nice, then I don’t have to be nice.”

これが事実ならば OpenAI はかなり狡猾だし,AI に対して肯定的な数学者からの信頼も大きく損ない得るだろう.“A major goal of our work is to empower scientists to advance research and technology that benefits all of humanity” などと宣ってはいるが…… AI の発展は数学にとって大きな好影響を齎すものだと思って概ね好意的に受け止めていたが,やや楽観的すぎたかも知れないと思い少々反省している.いや,今でも私は AI の純粋に知的な能力の発展自体には肯定的(これもゆくゆくは変わるかもしれない)だが,それが周辺に与える副作用にもう少し関心を持つべきだった.Kelly 先生も最新のプレプリントの注釈で “Mathematicians are currently being instrumentalised in a large scale advertising campaign by AI companies competing for market monopoly” と書いていた.

いずれにせよ,私が数学を勉強する,或いは研究したいと思う動機は数学自体の興味深さ(より正確に言うと,「数学的直観」なる人間の認知機能の奇跡的な有用性——それが人間の認知の形式の何らかの意味での普遍性に由来するものであれ,或いは数学それ自体に内在する何かしらの深い構造に由来するものであれ——及びそれを行使すること)なので,ある文書が数学的に正しく且つ意義のある示唆を持っていれば,それが人間が書いたものであれ AI が書いたものであれ構わないし,数学を勉強すること自体の意欲は下がらないのだが,それとは別の実際的な問題として,果たして私はこのままアカデミアに残って数学を研究することを目指し続けていて本当に大丈夫なのかという問いが浮上する.しかし,如何に AI の進歩によって数学者の席が減ることはあろうとも,人間の数学者が完全に消滅することはないと思っている(技術革新や社会の変化で圧迫されつつも生き延びている職は枚挙に暇がない;こう言っては非常に失礼だが,例えば神学部などの方が余程厳しい道だろうと推察する;それにチェスや囲碁だって同様だろう)ので,結局のところは私がその席に滑り込めるかどうかという問題に尽きるが,それは AI が登場する前と本質的には変わらない問題である.仮令 AI が全く存在しなかったとしても,私がアカデミアで生き残れるという保証も自信もない.従って,個人の選択としては殊更に特殊なことをする必要はないだろうと思う.そしてこれとは更に別の問題として社会的営為としての数学への AI の影響の問題があり,こちらの方が寧ろ深刻だろうが,これについては私はまだ論じられるほどの素養がない.個人的には,数学が既にこれだけ大きな文化である以上,何らかの形で生き残りはすると思うが,大きく縮小しても不思議ではないとも思っている.しかし,あらゆる営為の担い手は時代を通して常に流動しているもので,これも全く珍しい現象ではなかろう.而らば,こう言ってしまっては身も蓋もないが,真に危惧すべきは AI が人類の存亡自体を脅かす可能性なのかも知れない.折しもこんなツイートが流れてきた.

I resigned from Anthropic today. I spent the last three years doing pretraining research at both OpenAI and Anthropic. Neither company is acting responsibly. They are racing straight to self-improving superintelligence and gambling with our lives. More thoughts below.

— Jacob Coxon (@hilbertspaess) September 9, 2026

9/10(木)

メモ:Beilinson–Deligne の bb‾=1b\overline{b} = 1 に対して n=exp⁡(12log⁡(b))\displaystyle n = \exp\left(\frac{1}{2}\log(b)\right) とすれば b=nn‾−1b= n \overline{n}^{-1}.

Workshop on Polylogarithms の一日目.整数論サマースクールで知り合って ℓ\ell 進ポリログの話をして下さった S さんとまた話せたので嬉しかった.関先生とも話した.それから何故か寺杣先生にコーヒーメーカーの使い方を解説する機会に恵まれた.

Betti 実現には canonical な grading が入らないということが漸く腑に落ちた.例えば q≠0,1q \neq 0,1 に対する Kummer torsor K(q)K(q) を考えれば良い.これは (Gm,{1,q})(\mathbf{G}_\mathrm{m}, \{1,q\}) の 1 次ホモロジーに対応するモチーフなので,その Betti 実現は 11 を基点として原点の周りを一周する道と 11 から qq を繋ぐ道で生成されている.これは canonical には split せず,H1(C×)\mathrm{H_1(\C^\times)} から来る filtration(weight filtration)しか入らない.他方で de Rham 実現は dlog⁡z\mathrm{d}\log z と 11 上の定数関数で生成されており,これは canonical に split する.

混合 Tate モチーフについてはかなり付け焼き刃的な勉強で済ませてしまっているので,このように怪しいところがまだまだ沢山ある.それはそうとしても,混合 Tate モチーフという,非自明なクラスのうちで最も簡単なクラスのモチーフは本当の淡中圏を作ることができ,しかもそこには非常に豊かな理論が備わっているというのは,奇跡のような話だ.

9/11(金)

Workshop on Polylogarithms の二日目.明日は参加できないので,私はこれで最終日だった.S さんの講演が面白かった.

9/12(土)

ウエルベックの『領土と地図』を読み終えた.『素粒子』を読んだときにも感じたことだが,何とも言い難い(「現代らしい」?)孤独感が漂っていて,それが結構好きだ.

25 人の Fields 賞受賞者が連名で A Severe Misalignment of AI in Mathematics という文書を発表していた.書いてある内容には概ね賛同するが,Twitter 上での反応を見ると,少なからず誤解されているようにも見える.

The Association for Human Mathematics (AHM) という組織もあるらしい.

これまでに誰かが思いついていそうなのに,あまり論文で見かけたことがないようなことをちょっと思いついたのだが,実は自明でつまらないから誰も注目しないのか,難しすぎて面白いことは何も分からないのか,あるいは本当に偶然誰も考えていないだけなのか…… もしこれが面白いことであれば,とても嬉しいのだが……

9/13(日)

佐久川さんの論文を読み進めようかと思ったが,Beilinson–Degline が引用されているのをよく見るので,こちらを読んでみることにした.はじめの三分の一程度を読んだ.Dan-Cohen–Wewers で勉強した構成の ℓ\ell-adic version(というのは逆で,勿論 Beilinson–Deligne が先だが)だったので楽だった.

今年の浦和高校の文化祭の門は陽明門を模したものだったらしい.Twitter で写真を見たが,かなり迫力があり,一体どうやって作ったのか想像も付かなかった.埼玉県民であるにも拘らず一度も浦和高校に行ったことがないので,今年の文化祭は終わってしまったが,来年にでも行ってみたい.

9/14(月)

Beilinson–Deligne を読んでいて気になったので 2 次冪単行列の対称冪を計算した.初めて知った結果だった.表現論に詳しい人からしたらこのようなことは計算せずとも分かるものなのかしら?

この流れでこのサイトのデザインを色々と修正していたら時間を浪費してしまった.数学をやろうと思っていたのに…… しかし,懸案だった

を解決できた.メニューでは glassmorphism を使ってみた.PC 版でも使ってはいるが,特にスマホ版だと見易いと思う.

9/15(火)

今日は友人たちと三人で川外川に行った.9/6 の日記に書いた内容のリベンジ.今日は雨の予報で,警報級などとも言われていたが,何ともなくて良かった.お昼過ぎに本郷三丁目駅前で友人たちと待ち合わせて川外川に行き,その後は本郷キャンパスを徘徊した.ここ数日間は駒場で日本物理学会が開催されているので,物理学者の不在によって本郷キャンパスの戦闘力が低下している隙を狙って本郷を占拠しようと息巻いていたが,本郷では静電気学会が行われていたので静電気学者に静電気で撃退されあえなく敗走.その後は友人の一人が Google map で見つけてくれたカフェに行った.そこが大当たりだった.

個人経営の小規模な喫茶店で,チェーン店やコモンルームのコーヒーよりも真に(strictly)美味しかった.今まであまりこのような店には行ったことがなかったのだが,やはり違うものだなと思った.普段飲んでいるコーヒーよりも透明感のある味だった.店主さんによるとドリッパーが違うらしい(勿論他にも様々な要素があるだろうが)が,ドリッパーの違いでそこまで味が変わるのは興味深い.そして,珈琲はさることながら,その店の店主さんやそこに出入りする人々との交流がとても楽しかった.店主さんは気さくな方で色々と話しかけてくれたり珈琲に関して教えてくれたし,そこに出入りする人にも私達の話を振ったりしてくれたので,様々な人と話すことができた.あまり人のことを細かくインターネットに書き連ねるのも良くないだろうから詳述は控えるが,

という具合だった.10 月には谷根千地域(= 谷中・根津・千駄木)で芸工展が開かれるので,是非見に行きたいと思った.それにしても,やはり文京区周辺の街は雰囲気が良く,散歩をするのも心地良かった.

珈琲は拘るに値する趣味になり得るかもしれない.

今日は Serre の 100 歳の誕生日らしい.Serre 100 のライブ配信が行われていた.Serre が話す場面があったのだが,とても 100 歳とは思えないほどしっかりと話していて驚いた.フランス人は往々にしてフランス語訛りの強い英語を話すので,これもそうなのかと思ったら,本物のフランス語だった.

Beilinson–Deligne を読んでいたら,V∨∧V∨≅(V∧V)∨V^\vee \wedge V^\vee \cong (V \wedge V)^\vee の同型の convention としてあまり一般的ではないものを採用しなければならない箇所があった(気がする;というのも,この辺りはミスをしがちなので良く考えてみたら別にそんなことはなかったという可能性も十分にある).具体的には,c,c′∈V∨c,c' \in V^\vee に対して (c∧c′)(α∧β)=c(β)c′(α)−c(α)c′(β)(c\wedge c')(\alpha \wedge \beta) = c(\beta)c'(\alpha) - c(\alpha)c'(\beta) としないと微分の公式が合わないと思う.ひょっとすると Bourbaki などに何か書いてあるのかもしれないが,面倒なのでまだ確認していない……

9/16(水)

∞\infty 圏論のゼミがあった.Cisinski ではなく ∞\infty 圏論と言っているのは,9/6 の日記で述べた通り,現在このゼミが絶賛倦怠期に突入しており,今日は HTT の 3 章の内容が扱われたから.このままだと三人の参加者がそれぞれ自分の好きな文献(であって参加者間でそれなりに興味が共有されているもの)を発表する三重のゼミになってしまいそうだ.

引き続き Beilinson–Deligne を読み進めているが,今日は行列算数に一日を費やしてしまった.

9/17(木)

今日も Beilinson–Deligne に悪戦苦闘していたが,漸く昨日の行列算数パートを読み終えた.行列算数というよりは寧ろ級数の変形が難しかった.所謂 single-valued polylogarithm というやつも突然現れた謎の関数というわけではなく,しっかりと概念的な由来があるのだなぁ.今日はもう時間がないが,明日以降に計算過程をメモしておきたい.別にここの部分にここまでの労力を費やす必要はなかったような気がするな……

「トレッキング」の綴りが trekking であることを初めて知った.trekking という綴りを見かけてたので trecking の誤りかと思って調べてみたら,trekking が正しかったので驚いた.

久しぶりに本屋に行って本を買った.読書は引退したのだが……

これまでは寝る直前まで iPad で論文を読んだり PC で作業したりしていたのだが,そうすると中々眠れなくなってしまうので,ここ数日は寝る 30 分前くらいからなるべく電子機器を見ないように心がけて,その代わりに音楽を聴くことにしている(尤もその為にスマホを操作する必要があるのだが……).少しだけ寝つきが良くなっている気がする.

9/18(金)

Beilinson–Deligne の計算をメモしておいた.Baker–Campbell–Hausdorff 公式の特殊な場合として Bernoulli 数が出てくるとは知らなかった.

Beilinson–Deligne は取り敢えずもう良いかなという気分になってきたので,明日から佐久川さんの論文に戻る.少し前に少しだけ読んだ Dupont のサーベイも今改めて読んでみると有益な気がする.

regulator について気になったので調べていたら,Burgos Gil の本が丁寧に書かれていて良さそうだった.Burgos Gil–Fresán は MZV に関する言わずと知れた名著だし,Burgos Gil が関わると丁寧で良い本が出来上がるのかしら.

そろそろ来学期の履修とセミナーについて考え始めないとならない.履修に関しては,取りたい授業を列挙してみたら月から金まで一コマの授業の為に大学に行くという非常に腹立たしい時間割になりそうだったので,それ以来思考を放棄していた.セミナーに関しては,ここ数日で読んだ Beilinson–Deligne や Dupont のサーベイをもとに Zagier 予想周辺のことを話したい.出来れば佐久川さんの論文の内容も話したいが,別にこれらを一回に詰め込む必要はないので,適当に考える.9/12 の日記で言及したことについても少々考えておきたい.

今日はヴァイオリンのレッスンがあった.発表会で弾く曲の練習が楽しくなってきた.アルペジオは難しい.

播磨屋本店,「全人類最高の知性」が「商売人」では困るから急ぎ「自然人」に返ってくれまいかと今上天皇から暗に要請されている為,聖なる廃業をするらしい…… 代表はヤバいがおかきは本当に美味しいという評判をインターネット上で何度も聞いていたのだが,私はこのおかきを食べたことがなかったので,廃業する前に食べてみたい.

9/19(土)

今日はアルバイトがあった.九月ももう下旬だ.早すぎる!

以前読むのを諦めた Wojtkowiak の論文は,やはり読んだ方が良さそうな気がしてきた.気合いを入れるしかないのか?

少し前から噂になっている,OpenAI が Hodge 予想を解決しそうだという噂は,実際の所どれほど尤もらしいのだろうか.流石に Hodge 予想はそう簡単には解けないだろうという気がするのだが,昨今の AI の発展を見ていると絶対に無理だとも言い切れないように思える.

9/20(日)

この web サイトに対するコメントフォームを作ってみた.

今日は台風が近づいている所為か頭が痛かった.それから,佐久川さんの論文を読み進めた.

読みたくない論文や本は,無理に読もうとするよりも,印刷しておいて暇な時にパラパラと眺めることで単純接触効果によって好感度を高めることが重要であるような気がするので,Wojtkowiak の論文を印刷した.湿度が高くて紙が貼り付く為か,印刷が一発では上手く行かなかった箇所が幾つかあった.

散歩 vlog をダラダラと見続けてしまった.その副作用として,東京を散歩したくなった.実際の映像に(3D)アニメーションを合成するタイプの vlog は去年から流行っているらしい(友人談)が,私は今日初めて知った.

夕方頃から雨が強くなってきた.夜になっても降り続いている.

9/21(月)

佐久川さんの論文を一通り読んだ.明晰に書かれていてとても読みやすかった.全ての数学者はこのように書いてほしい.ポリログと KK 群の関係も段々と分かってきた.ところで,同論文の定理 6.2 では数体 KK 上の混合 Tate モチーフの(無限素点 σ ⁣:K⟶C\sigma \colon K \lra \C に関する)実 Hodge 実現が誘導する射

RR-Hdgσ ⁣:ExtMTM(K)1(Q(0),Q(m))≅K2m−1(K)Q⟶ExtMHS(R)1(R(0),R(m))≅C/(2πi)mR≅im−1R\begin{align*} &\mathrm{R}^{\sigma}_{\R\text{-Hdg}}\colon \ext^1_{\cat{MTM}(K)}(\Q(0), \Q(m))\cong K_{2m-1}(K)_\Q\\ &\qquad\lra \ext^1_{\cat{MHS}(\R)}(\R(0), \R(m))\cong \C / (2\pi i)^m\R \cong i^{m-1}\R \end{align*}

の和として定まる

⨁σRR-Hdgσ ⁣:K2m−1(K)Q⟶(⨁σim−1R)Gal(C/R)\bigoplus_{\sigma} \mathrm{R}^{\sigma}_{\R\text{-Hdg}}\colon K_{2m-1}(K)_\Q \lra \left(\bigoplus_{\sigma} i^{m-1}\R \right)^{\gal(\C/\R)}

が Beilinson regulator と一致することが主張のみ述べられており,Deligne–Goncharov が引かれているのだが,その当該箇所を参照してみてもそのような主張は書いていないように見える.Dupont のサーベイにも « On devrait avoir l’égalité ϖn=ρn\varpi_n = \rho_n avec le régulateur de Borel, mais ce résultat ne semble pas être dans la littérature » などと書かれているので,known to experts の類なのかもしれない.困った.

来学期の金曜四限に M 先生の Textkritik の授業があるので,数学以外の授業に出るのは久々だが,聴講してみようかしら.一コマくらい専門とは全く関係のない授業に顔を出しても罰は当たらないだろう.ここ最近は M 先生の読書会にも全く顔を出せておらず,申し訳ない気持ちになっていたところではあるのだが……

9/22(火)

Dupont のサーベイを読み直していた.Beilinson–Deligne や佐久川さんの論文を読んだ後に改めて読んでみると,以前読んだ時よりもよく理解できるようになっていることが感じられて嬉しい.

聊か現実逃避ではあるが,Burgos Gil の regulator の本を少しだけ読んだ.各々の章が短いし,分かりやすく書かれている(し,今日読んだ範囲は概ね既に知っている内容だった)ので楽に読めた.

9/23(水)

コメントフォームで日記の誤字を指摘してくださった方,ありがとうございました.

pp-adic cohomologies and pp-adic differential equations :来月東大で pp 進コホモロジー/微分方程式に関する研究集会が開かれるらしい.Kedlaya や Le Stum が来るらしい!

今日こそはセミナーの準備をしようと思っていたが,混合 Hodge 構造のことを考えていたらほぼ何もできなかったが,楕円曲線から 2 点を抜いた多様体の Hodge 構造を計算して納得した.それから,混合 Hodge–Tate 構造の weight filtration が C\C 上で canonical に分裂することも初めて知った.

昨日は日記を書いたのに更新するのを忘れていた.

BWV 5 の第 3 曲は göttliche Quelle と言いまくっているので,神泉のテーマソングとしよう.

9/24(木)

今日はヴァイオリンがあった.先生と Fuchs の Sieben Phantasiestücke (Op. 57) の 6, 7 楽章を合わせて楽しかった.私は共感覚を持っていないが,第 6 楽章は紫な感じがする.何故かは分からない.

今日もセミナーの準備を進めた.あまり進まなかったが,内容に関する理解は少し深まった.

複素関数としてのポリログの関数等式を一価関数のポリログに書き換えると weight の低い項が消えるのが不思議だと思っていたが,一価のポリログは混合 Tate モチーフの Hodge 実現

MTM(F)⟶MHTS(R)\cat{MTM}(F) \lra \cat{MHTS}(\R)

が誘導する Lie 余代数の射

coLie(MTM(F))⟶coLie(MHTS(R))\mathrm{coLie}(\cat{MTM}(F)) \lra \mathrm{coLie}(\cat{MHTS}(\R))

に,Lie(MHTS(R))\mathrm{Lie}(\cat{MHTS}(\R)) の canonical な生成元 NkN_k での evaluation を繋げたものの行き先で,ここで Lie 余代数というのは H>0/(H>0H>0)\mathcal{H}_{>0}/(\mathcal{H}_{>0}\mathcal{H}_{>0}) であるので,weight の低い項の積が消えることは確かに然るべき現象だと納得した.混合 Tate モチーフの Lie 余代数と通常の motivic period の代数は等価なので,motivic な関係式に関してこれらが含んでいる情報は同じ筈.

9/25(金)

所謂 polylogarithmic motive(Kummer motive の対称冪によって Q(0)\Q(0) を拡大したもので,周期行列としてポリログが現れるもの)が P1∖{0,1,∞}\projsp^1\setminus\{0,1,\infty\} の motivic fundamental group から何らかの操作で得られるのか考えていたが,よく分からなかったので Dupont–Fresán の A construction of the polylogarithm motive を見てみると,(purely motivic ではないが)Hodge 実現の忠実充満性及びその像が subquotient で閉じていることを使えば作れると書いてあった.確かに基本群上の混合 Hodge 構造から polylogarithmic Hodge 構造を作るのは出来た筈(多分 Hain とかが書いていると思う.しっかり確認していないので,嘘を言っている可能性もあるけれども)なのでこれで良さそうだが,あまり綺麗ではないし面倒だから,セミナーでは polylogarithmic motive の存在は認めてしまおうと思う.

9/26(土)

先日の Serre 100 での Zagier の講演(Valeurs zêta multiples finies et l’anneau des adèles du pauvre)の録画が早速公開されていた.この講演を聞く限りでは,Zagier は Kontsevich を「コンセヴィッチ」のように発音しているような気がする.時折日本語で「コンセビッチ/コンセヴィッチ」と書かれているのを目にすることがあって,一体どうして Kontsevich が「コンセヴィッチ」になるのか不思議に思っていたが,実際にこのように発音する人もいるのかもしれない.それから Cartier は multizêta という呼称はラテン語とギリシア語のキメラだからという理由で反対していたらしい.

52:04 あたりから Zagier が『せいすうたん』に言及して「整数たちの問題(ママ)の奇妙な物語」と言っている!

今日はアルバイトがあった.友人が持ってきたサルミアッキを食べさせられた.食べられなくはないが,確かに不味い.北欧の人はこれを好き好んで食べているらしいので,人の味覚は不思議なものだ.しかし我々が珈琲という矢鱈苦い液体を好き好んで飲んだりすることを思うと,さほど不可解なことでもないかもしれないと思った.

9/27(日)

母校の文化祭がこの週末に開かれていたので私は今日行ってきた.長らく会っていなかった高校同期と会えた.彼は早稲田の大学院で再生可能エネルギー関連のことを研究しているようで,AI が世間を騒がせる中で博士や研究者の立場はどうなるんだろうかねという話をしたが,彼も D 進するつもりらしい.変な人だ.

高校時代の担任の先生とも話すことができた.その先生が顧問を務めているところの歴史研究部は,今年の文化祭で企画出展の申請を忘れてしまい,急遽自習室で地下活動的な展示を行っていたらしい.折角なので見に行ってみると,例年通り興味深い内容だったが,如何せん地味すぎる場所なので人が少なそうだった.数年前に定年退職した物理の先生もいらしていたので少しお話しして,我々の代より上の人で IPMU に行った人がいるらしいということを聞いた.その時は「私も博士からは柏なんですよ〜」などと言って流してしまったが,名前くらい聞いておけば良かったと後になって思った.

文化祭に行った後,別の知り合いと会って数学の話をした.7 月末に母校で話した内容を話した.こちらも久々に会ったので楽しかった.終わった後は夕食をご馳走していただいた.

9/28(月)

Kummer mixed Hodge structure に関して変な勘違いをしていたことに気がついた.セミナーの準備はまだ終わっていないが,少々進んで終わりが見えてきた.

次期総長は藤垣裕子教授(東大新聞):新総長が決定したらしい.意向投票では二位だった人が選出されたそうだが,どのような過程を経た結果なのか分からないので何とも言えない.

例の Zagier の講演の『せいすうたん』言及部分を切り抜いたツイートが日本評論社の公式アカウントに引用されてびっくりした.

9/29(火)

青木貴史『完全 WKB 解析入門』:気になる.

セミナー時の準備が大体終わった.Dupont のサーベイでは数体に関しては nn 次の higher Bloch group から motivic Lie coalgebra の nn 次部分への射を作れると書いてあるが,これは全ての体に対する Beilinson–Soulé 消滅予想を仮定しないと無理そうな気がする.少なくとも,Q\Q 上有限生成な体や(Q\Q 上有限型な)その部分環などに関しては Beilinson–Soulé が必要だと思う.セミナーではこれらを全て仮定して話そうと思う.

Beilinson–Deligne で構成されている射

φk ⁣:Lk⟶coLie(MT(F))k\varphi_k \colon \mathcal{L}^k \lra \mathrm{coLie}(\cat{MT}(F))^k

(ここで Lk\mathcal{L}^k は Q[F×]\Q[F^\times] の商)は問題なく定義できるのだが,この Lk\mathcal{L}^k から作った複体は微分によって消える元が少ないので(この順接は自明ではない,というか構成を見る必要があるが,省略する),コホモロジーを取った時の射

Ker(d ⁣:Lk→⋀2⨁ℓ=1k−1Lℓ)⟶coLie(MT(F))k, d=0≅K2k−1(F)Q\ker\left(\mathrm{d} \colon \mathcal{L}^k \to \bigwedge^2 \bigoplus_{\ell = 1}^{k-1} \mathcal{L}^\ell\right) \lra \mathrm{coLie}(\cat{MT}(F))^{k,\ \mathrm{d}=0} \cong K_{2k-1}(F)_\Q

が全射にならない.Dupont に書かれている higher Bloch group の構成は Q[F×]\Q[F^\times] をより多くの関係式で割っているので,複体を取るとより大きな群が出てくるので,全射になる可能性があるが,そうするとそもそも motivic Lie coalgebra への射を作ること自体が難しくなるという微妙な塩梅のようだ.

この formalism と佐久川さんの論文に書かれている abstract polylogarithm の formalism の関係もまだ判然としていない.こちらの方は何の問題もなく定義されているのだが,どこで何が回避されて上手く機能しているのかしら.

明日指導教員に次回のセミナーのメールを送るので,いつまでも先延ばしにしていた履修を漸く決めた.最初の週は毎日大学に行くことになりそうで少々面倒だが,そのうち減っていくだろう.

9/30(水)

指導教員にメールを送った.

今日は Cisinski を読み進めた.本当は明日ゼミの予定だったのだが,間に合わないので延期してもらうことにした.Cisinski はややこしいところだったので図式をこねくり回していたら一日が終わってしまった.

今日は学振の採択/不採択の発表があったそうで,Twitter のタイムラインはその話題で賑わっていた.来年は私も申請書を書かないといけないと思うとやや憂鬱だ.

ところで,日記を始めたのは去年の 10 月中旬だったので,そろそろ一周年になろうとしている.ちょうど数日前に日記の文字数が 20 万文字を超えた.一年前の日記を読み返してみると,つい最近あったような出来事が実は一年前だったということに気が付いて驚いてしまう.