新年の挨拶など

投稿日:2024/1/1

雑記

イタリック諸語

明けましておめでとうございます.今年も宜しくお願いいたします.ただでさえ短く寛げない冬休みですが,イタリック諸語の授業の講読の予習の為,正月早々に南ピーケーヌム語([英]South Picene)の碑文を読む羽目になっております.オスク語もそうでしたが(ウンブリア語なんかもそうなのでしょうが),一つの文字(特に母音)が複数の音に対応する為,語源を調べないと何と読むのか分からないことが多くて大変ですね.何はともあれ,今年も精進して参ります.

Loro Piceno の石碑 (MC. 1)

南ピーケーヌム語はイタリック諸語に属する言語で,碑文でしか残されていません.例えば右の図はそのような碑文の一つです.イタリアの Macerata 県 Loro Piceno で出土した石碑で,MC 1 と呼ばれるものです.南ピーケーヌム語式アルファベットで書かれていますが,左下に nír([neːr] と発音されたものと思われます)という語が見えます.これは印欧祖語の *h2nēr「男」(Gr. ἀνήρ)に遡る語です.ラテン語には本来語としては残されていませんが,借用語としてはローマ皇帝 Nero の名に残されています.しかし,南ピーケーヌム語(をはじめとするサベッリア諸語)には本来語として残されているのですね.

碑文はとても読みにくいですが,有難いことに研究者がラテン文字に転写したものが既にあるので,私はそちらの方を参照しています.具体的には Zamponi の South Picene(Routledge World Languages, 2021)や Rix の Sabellische Texte(Handbuch der italischen Dialekte, 5. Bd., 2002)などです.

新年は何かを始めるにはちょうど良い機会なので,去年(今年度)は古典ギリシア語をそれなりに真面目に勉強したわけですし,古典ギリシア語で綴られた文章を少しずつ読んでいきたいと思いました.何を読むかという話ですが,矢張り注釈があった方が良いので注釈が簡単に手に入るものが良いので,Geoffrey Steadman という方がホームページで注釈を公開している作品から選ぶことにしました(尤もこの方の注釈には誤りが少なからずあるそうですが).この中であれば,取り敢えずは何でも良いので,私の関心に基づいてプラトーン([希]Πλάτων)の『パイドーン Φαίδων』にしました.ソークラテース([希]Σωκράτης)の死刑執行直前(及び死刑執行の様子)を描いた対話篇で,プラトーンの著作の中でも有名な部類に入るものですね.

実際に読むに当たって,差し当たり前述の注釈書さえあれば或る程度は読めますが,それに加えて役に立つであろうツールが幾つかあるので紹介します.ラテン語・古典ギリシア語に関しては Loeb 古典叢書の英語対訳が有名ですが,著作権が既に切れているものに関しては Loebolus という Web サイトや,Internet Archive で閲覧することが出来ます.John Burnet による Oxford 古典叢書のテクストも Internet Archive で閲覧することが出来ます.それから,Perseus Digital Library の Scaife Viewer というサービスでは各々の語の形態などの語釈や英訳を見ることが出来ます.同じく Perseus でギリシア語の単語の検索も出来ます.

先ほど Scaife Viewer を眺めていて知りましたが,Σωκρατέω ‘do like Socrates, “Socratize”’ という動詞があるのですね(Perseus).アリストパネース([希]Ἀριστοφάνης)の『鳥 Ὄρνιθες』という喜劇で使われているそうです.

こんな調子で,取り敢えず一日に一文以上という約束で読んでいきたいと思います.いつ読み終わるのか(抑も読み終わるまで続けられるのか)分かりませんが,続けられるだけ続けます.